北齋漫畫レポ。ちゃんと運命だった。
横山さんの北斎さん見てきました。グローブ座『北齋漫畫』10/21ソワレ。
一回こっきり。すべて見尽くす勢いで見てきましたが、 いかんせんフィーリングだけで物語も映像も理解する( したつもりともいう)タイプすぎて、逆に何も見ていないのでは? な何の役にも立たないレポですが、 残しておきたく筆をとりました。散らかった部屋みたいなネタバレありのレポとなっております、ご了承ください。
最初のプロジェクトマッピング、障子に映す所がいいですね。 空調のせいなのか、時々障子動いてますよね?( 動いてるように見えるだけ?) それがすごく何かの通り道めいていて良かったです。 これから妖怪の話が始まるのかと思いました。
いつの間にか目の前にお直さんと鉄蔵さん(北斎さん)が。 着物いいですね。
お栄ちゃんのつつましいけどおしゃれにも見える着物も好きでした 。
目の前の横山さんは、ひとつもつっかえることなく心の中の夕立ちのもやもや感を焦りながら怒ったように表現してました。片側の口角が上がったり、苦しそうにも見えるほどの鉄蔵さん。
順番ばらばらで気になったシーン等。
○お百さんが何かを伝って上から下におりようとするシーン。 身軽!
○小さいぷるぷるの蛸が何かの上に乗ってるところ。 北斎さんがそれを持っている。蛸、かわいい。
○ 白い足首。
○ お直さんがまとっている現代的なアンニュイさ。
○ 吉田サンのあわてんぼうのふんどし姿。
○ 白いくるぶし。
○ 馬琴さんとお栄ちゃんのちゅっ(とっても上品でした)。
○いっけいさんのコミカルに見えつつ重い思い。
○ 北斎さんが座って唐辛子拗ねてるように持っているシーン(唐辛子型の抱き枕欲しい)。
○お直さんそっくりの女性にひさびさに興奮を覚えて、もっと元気を出すため自分の内股を両手でこするシーン迫力あった。
二部がとても良かった。おじいさんメイクになるのに。
ちょっと枯れているのが良かった。 老いによって力がぬけつつ情熱だけに焦点が合って。
老いた馬琴さんと北斎さんの絡み、とっても味わい深かった。
人の話を聞いてない所とか、おとぼけな感じが面白かった。
横山さん、もしかして老いた人演じるの上手いのでは? 疑惑。
これなのかもしれない。昔の戯曲の持つ抗えない古さ、乱暴にさえ思える自分勝手エピソード、なかなか感情移入しにくい色恋沙汰、それらを全部チャラにして、チャーミングな新しい北斎演劇と成り立っているのは、すべて、座組から漂う、思いやりと優しさだと思った。言葉や空気を受け止めて、支えて、回す。素敵なキャッチボール。ステージの上が澄んでいた。
クライマックスあたり、完璧だった。びっくりした。超えてきた。間とか、感情の入れ方、空気感。めちゃめちゃ横山さんの演技にもってかれた。
北斎の『人魂でゆく起散じゃ夏野原』という辞世の句の言い方も良かったし、予習として見ていたNHKの美術特番(?)『北斎VS若冲 夢の天才対決』(北斎をムロさん、若冲を蔵之介さんが演じていた)で、見てて楽しみにしていた、「あと5年生きられたら本物の絵師になれた」のセリフも、めちゃくちゃ伝わった。劇中に「本当に悲しいときは涙も出ないんだ」という北斎のセリフがあったけれど、「本当に感動した時は涙も出ない」状態だった。
横山さんが今葛飾北斎を演じて、こういう言葉を自分の中に落とし込んで発するのは、ちゃんと運命だと思った。
思う存分描いたはずが、まだ描きたい、まだやり残した事がある、見たいものがある、それでも筆はもう動かない。それを無念とだけとっていいのか。「見たいものがある」という状態で絶えた事は、希望なのではないか。老いた北斎の目が、少年のようにきらめいていたのが印象的だった。
噂のカーテンコールでの横山さんの神々しさは、噂以上だった。
両手をあげて一身に光と拍手の嵐を浴びている姿は美しさ最高峰。
もしかしたらカーテンコール含めての物語だったのかもしれない。
老いて死んで、美の化身として生まれ変わって、拍手の中で新しい世界を見る。
つきあいでも、義務でもなく、心からスタオベができて嬉しかった。
ほのぼの気分で劇場を出つつ、好きなことに情熱を燃やしていかなければ、とも思えた素敵な舞台でした。